那智黒様

  

     『除夜の鐘』               

遼が山から下りてきた。
『今年は年越し当直はなしですみそうなんだ』
そう、電話で伝えた時は、ただ『そうか』と、そっけない返事だったのだが。


珍しく遼はやたらご機嫌だった。
「1月は正月で酒が飲めるぞ♪酒が飲める飲めるぞ〜酒が飲めるぞ〜♪」
頬を上気させて。朗々と遼は歌い出す。人気の無い公園通り、ツンと澄んだ空気
に、月が煌々と明るい。しかし、酔っ払いの悲しさ、少し外れた音程はご愛嬌。
「飲みすぎだよ」
苦笑。しかも、正月にまで、あと何分かあるし?
「んーあー伸!お前も歌え!」
「ええっ!?」


実際、会うのは久しぶりだった。
遼が突然、やってくるのには慣れている。『やぁ』簡単な挨拶を済ませただけで
、三十路の男2人で、年越し酒盛りが始まった。
火照った体を冷やすついでに除夜の鐘打ちにでも行くかと出たはずが、歩き出し
たとたん、アルコールが回り始めた遼の足は、ややおぼつかない。
たいした量(あくまで遼にとっては、だ)を飲んでいたようでもなかったし、酒
には滅法強い山男の彼だった事もあり、それは意外な姿だった。


「2月は節分だろ〜?つ〜づ〜き〜し〜ん〜」
「んーーー?3月はひな祭り、4月は花見、5月はこどもの日、6月は田植え、
7月は七夕、8月は・・・熱いからだっけ、9月は台風、10月は運動会、11
月は何でもいいで、12月はドサクサだったはず」
「・・・お前、よく覚えてるなぁ・・・」
呆れて、遼は立ち止まった。
自分が聞いたくせに。
「教授がよく歌うんだよ」
僕の趣味じゃない。
「後半の理由が弱いぜ!?」
「確かに」
腹の底から、なんとなく笑いの泡が浮いてきて。
可笑しい。
クスリと笑うと、手で頬を挟まれた。ザラついた、懐かしい手。
「腹から声出して笑えよ」
意外に真剣な目にぶつかった。
余計な事ばかり覚えて。君に会わない間、笑い方を忘れてた?
本当は、アルペンガイドをする君が、たいした無理をして、ここにやってきてく
れたのは知ってる。
君は、絶対に言わないだろうけど。
ヒタヒタと寄せられた、心。
弱音を吐いたつもりはなかったのに。
どうして解っちゃうんだろうね。
「キスしてくれたら、思い出すかも」
素直になれなくて、冗談で言ったら、本当に噛み付くように唇が寄って。
「・・・酒臭い」
「人のこと言えないだろ」
ムッとしたように。その唇が曲がる。
酔っ払いだね。2人とも。
「お正月でキスができた?」
「馬鹿・・・理由なんかいるかよ」
月が僕らを照らす。
しじまを破って、鐘の音が聞こえてきた。
「始まっちゃったね、もう間に合わないかな」
「そうだな」
生垣に腰を下ろすと。深々と、体に沁み込む様な音。
「理由がいるのか」
「え?」
「俺が理由だ。それじゃ駄目か」
「・・・遼」
それ以外の理由が、何処にあるのかと。
君は問う。
「酔いが醒めちまった」
腐るように君は言って。
「いくらでも。酔わせてあげるよ」
「上等だ」


鐘に負けないくらい、大声で笑った。
ありがとう。そして、あけましておめでとう。
いつまでも、いつまでも。
君と年を越えたいと。
鐘の音が、続くように。








ひゃ〜ほ〜ぅっ密かに遼伸で読んでしまいました♪ステキなSS年賀ありがとうございました♪